in Australia

 私がオーストラリアを訪れたのは1997年のことでした。

野性のイルカとの交流を取り入れた“イルカセラピー”を実践している

オリビア・ベルジュラック博士に会うためでした。


 オーストラリアでイルカと言えばモンキーマイアを思い浮かべる人が多いでしょうが、

モンキーマイアのイルカたちはビーチへきては餌をもらうので”半野生”といえます。

オリビア博士は野生のイルカたちとのセッションでセラピーを行える場所を探し、

見つけました。それがシドニーの北200kmにあるポート・スティーブンスという湾でした。


この湾には約80頭のミナミハンドウイルカが住み着いています。時折、魚を追って

ビーチに姿を現したりもします。ドルフィン・ウォッチング(船上)のツアー船もあり、

遭遇率は90%を超えます。オリビア博士のセラピーはこのポートスティーブンスに

ヨットを浮かべ、3日間のクルーズでセラピストも患者も船上で一緒に暮らすというものでした。


 このとき私もセラピーに同行し、体験させてもらうことができました。

セラピーの対象は軽度の自閉症児やうつ病の患者さんでした。セラピーの内容はただ

一緒にご飯を作り、海へ入り、イルカが現れたらウォッチングし、時にみんなで歌い、

日が暮れれば寝るというスタイルで特別な治療が施されるわけではありません。

 

 しかし、3日間のクルーズから帰ってきたとき、患者さん達の顔は出発のときと

比べものにならないくらい明るくなっていました。セラピー後、オリビア博士は

こう教えてくれました。


「このセラピーで大事なものは何だと思う? イルカ? イルカはエッセンスの一つ

 なだけ。大事なのは『セラピスト』『共同生活』『大自然』この三つの要素。」


 イルカセラピーといえばイルカがセラピーの大きな部分を占めると思っていた

私にとってこの考え方はとても新鮮でした。「近くにイルカがいるかも」という

エッセンスを加えているだけで基本的には自然の中でセラピストとキャンプ生活を

おくることが患者さんにとって自発的な行動を促し、心を穏やかにするというのです。


 セラピーではありませんが、御蔵島のイルカウォッチングツアーの中でも

イルカだけが大事であってはならないと私は考えています。そこにある全ての自然、

そこにながれる時間、空気を肌で感じられるツアーが私の理想です。